自然哲学学院で読むことができる文章をテキストに起こしたものです。
OCRで起こしたので誤字脱字がありましたらご連絡をお願いします。
古い日誌①
……
…同じ実験室に配属された。すごい神童だと、みんなが言うから最初はすごく緊張
した。災禍以降、そんな人は特に貴重
学院の期待され、長官の推薦を受けて来た偉そうな人かと思いきや、意外と悪くな
い。親しみやすいとは言えないけど…
はっきりした症状はない。
……
…災難もいいところだ。やっとのことで砂漠の遺跡から運び込んだ古代の立体マシ
ンを倒してしまって、その拍子にマシンが起動し辺りは減茶苦茶だ…
…僕よりずっと年下なのに、本当にすごい。あんな方法でマシンを手懐けるなんて
。手懐けるという言葉は適切ではないか?他のエンジニアには馬鹿にされるかもし
れないが、手懐けたとしか言いようがない…今のクロックワークに関しては僕もそ
れなりに詳しいつもりだから、技術レベルに雲泥の差があることもわかる。構造の
件は別としても、動力源の障害を克服しなくては有意義な発展は望めない…
今後はもっと気をつけよう。アランが怒っているところは見たことがないけど、
でも怒るとどうなるのか。考えたくもない。
少しだけ軽い症状が出た。
……
休暇。
……
アランが来てくれた!しかも妹さんまで一緒だ。とても可愛らしい子で、まったく
人見知りをしない。うれしかった…
…宝石と磁気テープの回路を元にした思考マシンの構想について検討した。「検討」
と言っても、自分は「ヘへぇ」「すごいですね」「どうやって?」などと、彼の話に合い
の手を入れただけだ。でも彼は興奮気味に話していたし、実験室にいる時の彼とは
全然違う感じがした。それにしても、妹さんは研究助手の自分よりよほど賢い!
…病気になるのもそんなに悪くない。でも、やっぱり学院に早く戻って手伝いがしたい…
……
…補充用のマシンが届いた。この前のは徹底的に分解されたから、もう使い物にな
らない…でも彼の説明を聞いたら、色んなことが分かった。なんとかっていう地脈
の元素を使ってなにかを動かすとか、でも今の技術精度や材料では、再現できない
とか。レポートをまとめる手伝いはしたけど、僕にはちんぷんかんぶんだ!
…彼が研究資源を独占しすぎているからか、陰で色々文句を言われているようだ。
でもみんなは僕より賢いのだから、仲良くすべきだ。そうすれば世界はもっと良く
なるのに…
…妹さんから、お友だちが学院に入ると聞いた。会うのが楽しみだ…
はっきりした症状はない。
…
…新たな仲間が実験室に加わった。でも彼らの議論は、今まで以上に難しい!単語
の意味は全部わかるのに、それが文章になった途端、意味が掴めなくなるのはなぜ
だろう?ジェイコブとお喋りしているときだけは、同レベルだと思える…ここまで
書いて急に恥ずかしくなった。ジェイコブみたいな、自分よりうんと小さい子ども
安心感を求めるなんて、大人としてのプライドはどこへいってしまったのやら…
…アランとルネはプライマルメカ(今後はこれが正式名称になるようだ)の研究を
ベースに、ウーシアとプネウマの特性を活かした新たな動力コアの開発を目指して
いるようだ…
少しだけ軽い症状が出た。
……
とりあえず役には立ったと思う!多分、そうだよな?アラン兄妹、ルネ、ジェイコブ
と一緒にピクニックに行った。正確にはフィールドワークだけど。実はみんなが
あまりに研究ばかりしているから、妹さんと相談して、外へ出るよう学園長に指示
してもらったんだ。
…ペトリコールにはなにもないけど景色だけは良くて、大きな滝がある。今回はみ
んなの姿を写真に収めたくて、学院から写真機を借りてきた。妹さんの写真をたく
さん撮ろうと思う。こういうチャンスがもっとあればいいのに。アランは仕事一辺
倒で、中々妹さんの成長を見守れない。いつか彼が後悔する日がきても、写真の中
で日々成長する彼女の姿を見たら少しは心が満たされるだろう。子どもの頃、うち
に写真機を買うお金があって、あんなことが起きなければ、母は僕の写真をたくさ
ん撮ってくれただろう…ルネやジェイコブも彼女が大好きだ。彼ら四人が一緒にい
ると、一番年下の彼女がお姉さんぶっていて、すごくおもしろい…
…ここの遺跡と石像に興味を引かれたようだ。ルネはなんとかっていう劇団と印の
話をしてくれた…でもせっかく外に出かけたのに、結局彼らの頭の中には研究のこ
としかない…
はっきりした症状はない。
……
休暇。
……
…妹さんがジェイコブを連れてお見舞いに来てくれた。アランとルネは研究の山場
を迎えていて、仕事を抜けられなかったそうだ。でもそんなことをわざわざ教えて
くれなくてもいいのに。だって自分の能力を考えたら、みんなの役に立てるだけで
十分幸せなのだから!
…
意識を失っているときにアランと学院長が来てくれたそうだ(別々にだが)!無駄
足を踏ませてしまって、申し訳なかった…
引き続き休暇。早く復帰して手伝いがしたい。
……
…今さらながら、みんなが水仙十字院の後輩だと知った。すごくうれしい!院長や
副院長の話、冒険やケンカのエピソードを聞いていたら、昔に戻ったような気がし
た。唯一記憶と違ったのは、副院長お手製のケーキの話だ。自分の頃は罰ゲームみ
たいな味だったのに…
…災禍の後、当時の友だちとはほぼ音信不通になった。彼らみたいに再会できたら
、すごくいいと思う。みんな、今頂どうしているだろう?きっと水仙十字院の再建
に励んでいるだろうな。今度絶対訪ねてみよう…
…また思考マシンの話題になった。話の途中で、思考能力を備えた写真機の製造を
思いついた。そうすれば彼みたいに忙しい人でも、自分の不在時に大切な人を撮影
できる。彼はそれはともかくとして、警備や偵察の役に立つと思ったようだ…
……
…やった!遂に電球が光った!快復して歴史的な瞬間に立ち会えるなんて、僕はな
んてラッキーなんだ…少し残念だけど、ルネとジェイコブの研究もうまくいくとい
いな。あ、あと僕より頼りがいのある助手が彼らにつきますように!
はっきりした症状はない。
……
休暇。
昏睡状態のときに何度か来てくれたようだ。置き手紙しか読めないのが、ちょっと
し。
ジェイコブの手紙に、自分とルネの実験室に来てほしいと書いてあった。なにか相
談事があるようだ。
早くベッドから出られたらいいのに。
……
アンが花をくれた。でも目覚めたときには、もう枯れていた。
休暇。
……
今日はベッドから出られる。
ここがアランと最初に出会った場所だ。少し後になって、初めてここで実験のプロ
セスと現象を語る彼の口述筆記をした。彼は体に全然合っていない白衣を着て、下
の方でマシンが動くかどうか試していた。ルネとジェイコブはその後、あっちのド
アから入ってきた。アランは神童っぼさをかなぐり捨てて、嬉しそうに彼らに駆け
寄った。
そして横には、対消滅現象の制御に初めて成功した現場がある。まぶしい光が深い
影を落としていた。あれはきっと歴史が誕生した瞬間に違いない。でも興奮のあま
りリインク瓶をひっくり返した自分も、その歴史の一部になれるだろうか?
反対側の閉じたドアの向こうが、ルネとジェイコブの実験窒だ。研究対象が危険す
ぎるためか、あのドアはむやみに関けられない。彼らもきっと、歴史に名を残す偉
大な学者になるだろう。
アランは別の実験放に移ったようだ。彼の計画では、エネルギー問題が解決したら
、次は機械運動学の研究に取り掛かることになっていた。今度改めて挨拶に行こう
。アンは今どうしているだろう?彼女は来、どんな美人さんになるのかな?
日記はことこまでにしよう。もう残された時間はわずかだ。
すべてうまくいきますように。
古い日誌②
……
プライマルメカを研究。
……
プライマルメカを研究。
養父が来てくれたのに忙しくて相手が出来ず、アンに叱られた。今度会ったら謝ろう。
……
プライマルメカを研究。
助手が休暇を取った。
……
ここが正念場だ。
助手が休んだのに忙しくて見舞いに行けず、アンに叱られた。明日は行こう。
……
ここが正念場だ。
見舞いを忘れてしまって、本当に申し訳なかった。みんなを誘って明日一緒に行こう。
……
休暇。
助手は休みだ。見舞いに行く。
アイデアを書き留めること。ロジックツリーではなく、思考のセルを大量に組み合
わせて仮想神経ネットワークを形成するのだ。
写真機?
……
プライマルメカを研究。
助手が休暇を取った。
……
プライマルメカを研究。
助手が休暇を取った。
プライマルメカを研究。
ルネとジェイコブは今日から自分の研究に着手した。
助手が休暇を取った。
……
突破口を開いた。
特許の申請手続きは面倒だからやめた。
助手はそれなりに元気そうだが、少し心配だ。
医療レベルの差を考慮して、スメールに行った方がいいと勧めた。
……
休暇。
次は機械運動学を研究する。
必要な材料のリストを整理した。
……
お見舞い。
……
お見舞い。
……
お見舞い。
運動学の実験用にもっと大きな実験室を用意したと言われた。
でもひとまず移転は止めにした。
……
お見舞い。
何度も実験室を移るよう催促された。
でも移転すると、助手が場所を見つけられないかもしれない。ちょっと面倒だ。
……
お見舞い。
……
お見舞い。
実験室を移した。
古い日誌③
…でも方向性の違いから、結局は学院長先生に新しい実験室を用意してもらった。
それも仕方ない。だって、アランは賢すぎるから。彼が信じるのは自分だけ。他人の
目や経験は信じない。自分の出した結論がそれと同じでない限りは。でも、それで
いい。アランも自分のやり方で世界を良くしようとしているのだから。彼を信じよ
う。だって、ここはアンの生きる世界でもあるから…
‥学院には大勢の人がいる。でもカーターお兄ちゃん以外の友だちはそんなにいな
い。みんな私たちを嫌ってるみたい…
ールネが研究用にすごいものを手に入れた。どれも災禍の後に現れたものだと閾い
た。一般人には危険すぎる。でも私はなんてことない。多分体質がかなり変わった
んだと思う‥
ールネの役に立った!
.お見舞いに行ったとき、彼も水仙十字院の出身だと知った。でも私たちが副院長
に捨てられたことは、最後まで話さなかった。彼を悲しませたくなかったから…自
分がしてもらったみたいに、彼をサポートできたらそれでいい…
……
…ルネと話し合った。彼はやってみると約束してくれた。危険だから、カーターお
兄ちゃんに洗いざらい話すべきだと言われた。彼の命なのだから、彼自身が判断す
べきだ。でもうまくいけば、彼も私と同じように生きられる…
古い日誌④
……
…ギヨタンの指示通りやったら、研究は順調に進んで…エネルギーを放出できるクロックワークが完成した。正直、もうあれをクロックワークと呼ぶ必要はまったく
ない。なぜなら、すでにゼンマイバネの位置エネルギーには頼っていないから…次
は彼が運動学の分野でどんな成果を挙げるかだ。旧式のクロックワーク・マシナリ
ーでは、あれほどの出力は受け止めきれない。天才少年も一度くらい失敗を経験し
た方がいい…
……
…あんな不安定なエネルギーの利用を思いつくとは、流石だ。我がフォンテーヌの
大気や水中、生物の体内からも、遥か昔から地域特有の特殊エネルギーが検出され
ていた。だがリスクにぱかり目がいって、こういった使い道があるとは考えもしな
かった…
……
…今は若き天才ってやつが多すぎないか?学院長はうれしいだろうが、我々一般人
の気持ちも少しは考えてほしい…みんながシェルビウスみたいにぽぼけっとしている
わけではないのだから…
……
…高い評価をもらった。特許で大儲けできるだろう。だが結局このマシンは自分で
はなく、ギョヨタンが作ったようなものだ。だから特許の申請はしないことにした。
家族はうるさく意見してきたが、自分にだってエンジニアのプライドがある…
…改良を重ねて、出力数率がアップした…
…どうやら特別に再編成が行われたらしい。それも悪くない。彼があのまま研究を
続けていたら、どんなに恐ろしいものができていたことか…
……
…ここまで来たら、撤退あるのみだ。学院長は再建したら改めてみんなにポストと
研究資源を用意すると言っていた。だが自分はきっと、これを機にお払い箱になる
だろう。この程度の人間が呼び戻されるはずがない。もういい。今の暮らしは十分
快適だ。リタイアしたものと思おう。街に小さな工房を開いて、時計や写真機の修
理でもしよう。そうだ、水中で使える時計は作れないだろうか。このご時勢だ、儲か
るかもしれない。
古い日誌⑤
……
…彼は普通のダーリマシンでは飽き足らなくなったらしい。だから今回は学院長が
なんとか国家資源を流用して、とてつもなく恐ろしいものを調達してきた。途中で
死人が出るかと思ったよ!彼の探究心を満たせるといいけど…他にも併せてスメー
ルの学者が研究中の希少なダーリ人装置の部品を見つけてきた…
……
…暴走したのはこれで三回目!ギヨタンは死んでもへっちゃらみたいだけど、こっ
ちはそうもいかない…被害を防ぐ緊急対応策を考えた。出番がないまま、彼が運動
学のプロジェクトを終えてくれたらいいけど。あの性格だと、研究は永遠に終わり
そうにない…
……
…マシンの実験というのは、犬のマシンを作って運動学や材料学の分野で得た成果
を検証することらしい。中々いい選択だ。街に運んで展示してもいい。隣で作って
いる自動砲塔より、よほど親しみやすい…
……
…少なくとも彼がファントムハンターに引き抜かれるまでは生き抜いた。お互い今
日まで生き残るのは大変だった。でも自己修復するあのクソ殺人マシンはどう処理
しよう?!まあいい、それは未来の人間に考えてもらおう…
古い記事
……
…残念だが約束を反故にするしかない。コペリウスの新作を期待していたのだが。
彼には幼い頃から溢れんばかりの才能があった…
……
…皆の安全を考慮して、学院の封鎖を決定した。血気盛んな若者たちは、「外に出て
戦う」といきり立った。彼らもいつか理解してくれるとよいが。災禍の後の再建は、
命を捨てるよりも大事なことだと…
……
…何年もしないうちに撤退を迫られるだろう。ルキナの泉付近に移転先を用意して
おいた…そこに歌劇場を建てるなど、とんだお笑い種だ。世の中には斯くも滑稽な
者がいるものか…
……
…一緒にバザルの墓参りに行った…
…エマニュエルの言う通りになればいいのだが。若き才能をサポートするのが学院
の社会的責任ではあるが…
……
…新任の最高審判官と面会した。個性的なお方だ。レオンの小者たちよりは大分頼
りがいがありそうだ…
……
…うまくいけば、これまでのクロックワーク・マシナリーに対する考え方を覆せる
だろう。アプローチも計画もしっかりしている。これは注目に値する…
……
…初期成果は満足のいくものだった。投資を増やすことにしよう…カーターが頻繁
に休みを取るようになった。経済的な問題を抱えていないか、誰かに確認させよう(
家庭の問題ではないだろう)…
……
…総合的に考えて探用を決めた。ひとまず同じ実験室に配属しよう。だがアランに
次いで彼らが加入すれば、他の者がどう思うか心配だ…様子を見なければ…
……
…見舞いに行ったときは昏睡状態で、話ができなかった。血液サンプルを採取し、
治療や緩和の手立てがないか探ってみよう…
……
…研究計画を受け入れるのは難しいと予想していたが、実用的な価値が高いと判断
して承認を決めた。土地や水に残る毒素は今でも完全に中和されていない…水中で
生まれる奇形の水元素精霊…ある意味においては過去が残した教訓ともいえる。彼
らがカールの養子だとは知らなかった。水仙十字院がなくなってしまったのは残念
だ‥
……
…過去100年で最大の技術的成果だ。将来は社会全体に変革をもたらすに違いない
…
……
…レポートには奇妙な動きがあると記されていた…折を見てエマニュエルに相談し
てみよう…
古い調査報告
……
…結社なのか、勢力の活動なのかは定かでない。指導者は「大師」と呼ばれているよ
うだ。外部の調査には強い警戒心を抱いている。だが全体的には明らかな攻撃性や
侵略性は感じられない。そのため正規ルートで立件や調査をするのは困難だ…
…目的は不明。更なる調査が必要である。学院が、怪しい活動の中心のようだ…
古い博物館の抜粋
・・・・
純水精霊はフォンテーヌの大地がはぐくんだ美しい精霊である。慈愛に満ちたエゲリア様が最初に流した一滴の涙から誕生したという。エゲリア様は龍たちを哀れんだとも、人類を待ち受ける運命を悲しんだともいわれている。
この件について我々が知るのは、「トカゲが白骨化して泥と化し、そこからハクチョウが生まれた」というルーツ不明のメタファーのみである。
新たに生まれた純水精霊には、万物の理解という氏名が与えられる。森羅万象を知り、あらゆる命を愛せよというのだ。生命の海から生まれた純水精霊は、生物に返信する能力を持つ。エゲリア様はそれによって純水精霊に生物の形を記憶させ、純水精霊もそれによって生物への憧憬を抱く。人類を十分に理解したとき、純水精霊は大地に初めての涙をこぼす。それからというもの、我々は始祖やその血統を「彼女」と呼ぶようになった。
これが純水精霊の起源である。
【小さな文字で記された文末の注釈:あなたはこのような記録に科学的価値はないと考え、純水精霊がエゲリア様やそれ以前のレムリアに先んじて誕生したという物証や記録があると指摘したうえで、『地域差に応じた形態進化の研究・モリイノシシの野外追跡調査』こそが研究の王道だと主張するかもしれない。では聞くが、あなたに自分自身の起源を追求する勇気はあるだろうか?神々が怒りのあまり雷を落とし、女神の悲しみの涙で湖ができた—それこそが真実だ。】
・・・・
純水精霊の知能は上下に大きなばらつきがある。寿命の違いによる地検や見分の差、著しい個体差がその一因であろう。中にはまりにも愚かなために大陸の水系に関わる任務には不向きと判断され、フォンテーヌにとどまり人類をいやす役目しか果たせぬものもいる。
・・・・
純水精霊はその数を増やすために(繁殖や増殖、再生等の言葉を当てはめてみたが、どれもしっくりこない)、つがいになる必要はない。知識や感情を十分理解、蓄積した段階で、水神様か族長の許しを得て、所謂…「これ」を授かり、自分を分裂させて新たな純水精霊の子を生み出すのである。
「これ」ではあまりに抽象的すぎる。人類の理解しやすいように「分岐螺旋」と呼ぶことにしよう。だがその正体は誰も知らない。あるものは純粋な一滴の水だと主張する。それを授かった母体は、感情と知性でそれに薫陶を与え、命を誕生させるというのだ。さらにある者は、それは言葉や名前、呪文かもしれないという。同意を得た後、純水の体内の夢と渇望に新たな名が与えられる。夢の子どもたちのように、長い年月を経てようやく一つの名を手に入れるのである。
だがこれは純粋の物語である。人類はそれを知る由もない。
・・・・
純水精霊が生まれた際には、役所に出生届を出さねばらならない。エゲリア様に万が一のことがあれば(エゲリア様を貶める意図はない。ご自身にも神のご加護を残しておかれますように)、純水の族長にも種の保存が図れるようにするためだろう。だがもし去らない厄災に襲われたら、純水精霊族はどのように変わっていくのだろう?
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